月に一度WORKSHOP VO!!で書いているコラムの転載
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山にある木、とくにスギやヒノキというのは勝手に伐ってはいけないということはあまり知られていないような気がする。山は自分の所有する土地ではあるのだけれど今伐り時を迎えているスギやヒノキは国の政策によって植えられた国のものなのだ。
なので山の木を伐るにはまず伐採届というものが必要で、それを届け出ることで現在の人工林面積が分かったり、山にどんな木が植えられているのかが分かるようになっている。本来は…
とまぁ林業に関わってまだ1年の若造?いやもう40を迎えようとしてるからおじさんになっちゃうのか?林業界の新参者ではあるので間違った知識もあるとは思うけれども、現在のインプットを元にごちゃごちゃと書いているので間違いがあったら素直に受け入れてアップデートしていくとして書いていこう。
木を伐り始める前のハードルその1
山の木はただ伐ることができない。現在はただ木を伐って市場へ持っていって売るとしても掛けた経費を回収して利益を上げようとしても難しい、そこで補助金を使うことになる。補助金にたよりきりの事業はあまりよくない。補助金にあわせた経営体系になってしまい自由を奪われてしまう。
現在の林業の問題というよりは僕らの暮らしの問題ではあるとは思うのだけれど、木材製品というよりは丸太の値段が恐ろしく安い、社員を雇って事業としてやっていくためにしている経営努力の範囲を超えてしまっている。補助金の事業継続するとともに、オリジナルの事業体系を作っていく必要がある。
始めの話に戻ると補助金を利用して伐採しようとするとある程度の面積が必要になり山主さん数名の土地を集約して一つの施行地として作業をしていく。そのためにそれぞれの山主さんに許可をもらうところから始まる。
これまた大変な作業で、山主さんが地元に住んでいればまだいいほうで、県外にいたり、海外にいることもある。そもそもが山林は田舎にあって高齢化している場所がほとんどだと思う。そんななか話をしたりする必要がある。というかまずはその地域に溶け込む必要が出てくる。ぽっと出のどこの馬の骨かわからない人に山を任せるなんてなかなかOKを出せないだろう。まずはそこにハードルがある。地域の人がハードルを下げる必要もあるだろうし、新参者がハードルを柔らかく寄せる必要もある。
とにかくなかなか木を伐らせてくれない。大小様々なハードルがある。
僕らはようやく森にたどり着いたが、諦める力が必要だハードルその2
そんなハードルを乗り越えようやく山に入れたとしよう。山主さんの所有する山の地図を手に入れ意気揚々と森へ入っていく、ところがそびえ立つスギ・ヒノキが行く手を阻むように、すぐに次なるハードルが見えてくる。
地図によるとこの辺がAさんとBさんの土地の境らしいが…パッと見では分からない、そこら中にスギ・ヒノキがある。この木とこの木の間がそうなんだろうか?いやそれともここか?と探偵のように一つ一つ証拠を見つけるように境界を確定してくための情報を見つける作業が始まる。
谷境、尾根境、自然の地形を境にしている場合もある。それが特徴的なものであれば誰でも気づくことができるだろうけれど、このカシの木にしようとか、特定の植物を境木にするとか、ちょうどいいところに岩があるからこれを置いておくかとか、空き瓶を境に置いておけば分かるでしょとかされたら、未来の人たちはそんなんしらんがな!と叫びたくなる。でも山では往々にしてそんなことがある。
ちゃんと杭を打ってくれている場合ももちろんある。それでもその杭を見つけてそれを境だと確定するには時期尚早である。杭の場所が間違っている場合もあるからだ。山主さんだって代が変わったりして、自分の山がどこにあるのかわからない人もいる。ましてやよほど山に関心を持っている人でなければ山の中にまで入ってきて山を愛でることもないだろう。もしかしたら、隣の山主さんが打った杭の可能性もある。
間違って打たれた杭に気づかずにそのままでいると10年とか20年でその人の土地になることがある。そんな法律を悪用すると少しずつ自分の土地を拡大することも可能なのである。それは置いておいて、山の中では何を信じたらいいのだろうか…
すべての要素を未確定のまま境界に関する情報を収集していかなければならない、この沢はこの地図のここと同じ形状をしているな、ふむふむ、ここは間伐したあるけどあっちはないな、ふむふむ、ここに人工的に置かれたような石がある、道を挟んだあそこに境があってその延長線上のここがここの角か?とたくさんの情報を収集してようやく「もしかしたらここがAさんのこの土地だ(かもしれない)」とひとまず仮確定していける。そして、隣の土地を調べにかかるとまた新たな情報が出てくるかもしれない、かなり柔軟な思考が必要とされる。
諦める力が必要だと言ってもいかもしれない、忘れるのではなく一旦諦める。そして新たな情報を収集していく。土地を切り分けるというのはなかなか難しから確定してくれそうな情報を見つけるとそれに固執したくなる。が仮確定して次に進むが吉なのだ。
境の木に屋号を打ってくれている人もいる。僕らも年をかさねて見た目が変化するように自然も時間の経過ともに変化していく。屋号を打った木が朽ち果ててなくなっている場合もある。それでもこまめに屋号を打ってくれている人の山だと数本なくなっても、きっと境のどこかには打ってくれいるかもしれないと思って探すとやはりあったりする。
自然にも目を向けるとともに、そこを境にしようと思った過去の人の思いも汲み取っていく、過去と現在、過去から未来に思考を行ったり来たりさせながら、境界を確定させるための情報を集めていく、なかなか頭を使う高度な作業だ。観察力、人の思いを汲み取る力、気づく力、体力、総合的な能力が求められる仕事だ。
まだまだ木を伐らせてくれない
ここまでは木を伐る以前の話だということを思い出しておこう。それでもなお、木を運び出す方法を選ぶ必要がある。道を作るのか、架線で集材するのか、なかなか木を伐れない、道を作るにしても目的の場所までどんなルートで行くのが良いのか、作業しながら岩が出てきたりして難航する場合がある。木が出てこないことにはお金も得られない。
木を伐ってお金にするにはハードルが高いのだ。
放って置いた結果、自然環境や経済活動様々な側面に影響を与え始めている。はたまたその逆で僕らの活動や暮らしの結果が今の森林放置につながっているのか。
林業というのは高度な能力を求められる仕事だということが知られていない、本来はもっと認められて、そんなすごい仕事なんだと知ってもらうことも必要なのだと思う。
少しずつ少しずつ林業の課題を体験しつつある僕は何ができるのかを考え始めている。